石川県立図書館蔵川口文庫『文筆問答鈔』の研究 ( 七)

全文

(1)

石川県立図書館蔵川口文庫『文筆問答鈔』の研究 ( 七)

著者 柳澤 良一

雑誌名 金沢大学国語国文

号 41

ページ 1‑14

発行年 2016‑03‑18

URL http://hdl.handle.net/2297/46388

(2)

︻本文翻刻︸︵上一五丁ウ五行〜上一五丁ウ七行︶

贈答事/

Ⅲ〃エ﹂kIルーヲイヶタビナリ問︑贈答︵1︶如何︒答︑自二人許一贈し詩時答し之錐一何度一/

ノヲ

一一一一︽〃7へ

可レ用二贈一2︶詩韻一也︒随し時依レ人靭可冒存知也︒/

︷校異︸︵上一五丁ウ五行〜上一五丁ウ七行︶

︵1︶贈答如何︒答︑自人許贈詩時答之難何度可用贈詩韻也︒随時依

人珈可存知也−内﹁贈答詩躰如何︒答︑人贈三我於詩一・我答レ之

以レ詩則用一一前韻・名:之贈答一︑又名皇唱和↓・随し時依レ人靭可↓

思慮・也﹂︒

︵2︶贈−尊﹁贈﹂︒

三川ロ文庫本﹃文筆問答紗﹄の翻刻 石川県立図書館蔵川口文庫

﹃文筆問答紗﹂の研究︵七︶

二三︑贈答の事

︻本文翻刻一︵上一五丁ウ八行〜上一六丁ォ三行︶

隅︵1︶吟事/

問︑隅︵2︶吟躰︵3︶事如何︒答︑王沢抄云︑無題述懐篇是也︒/

コウキン三月三日偶吟︵4︶/

ル︲卜リヲ︑ダハ○ノマ︑ン

桃李色︵5︶々錐し識し境︵6︶無詩酒興友今空/

ヲ・ンリナリ

ニ旬有二官猶浅三月初三花独紅﹂︵上一五丁ウ︶

卜︑メテヲツフハノノヅ

テヲ二ツノ 停蓋先思巴字水閣筆倫恥魏文風/

ナケウッヤヲイナヤ

ノハノ

歌鶯舞蝶弛吾否春意不レ来学備中/

此︵7︶其躰︵8︶也云々︒已上律詩躰︵9︶︑抄之了︒/

︻校異︸︵上一五丁ウ八行〜上一六丁ォ三行︶

︵1︶隅−内﹁偶﹂︒

︵2︶隅吟躰事如何︒答︑王沢抄云︑無題述懐篇是也︒三月三日偶吟桃李色々難識境無詩酒興友今空二旬有二官猶浅三月初三花

独紅停蓋先思巴字水閣筆倫恥魏文風歌鶯舞蝶拠吾否春 二四︑隅吟の事

柳澤良一

(3)

︻本文翻刻︸︵上一六丁ォ四行〜上一六丁ウ六行︶

廿九対事/

ーハ

問︑対躰︵1︶如何︒答︑秘府論↓2|廿九種対︒近代用十二対也︒

ニハテキメィ問︑廿九種対様如何︒答︑秘府論東廿九種対︵3︶︑一日的名/

ニハKO

対︿亦名二正名対一・/亦名三正対一﹀︒二日隔句対︒三日隻擬対一・メントセイ四日聯綿対二︵4︶︒五日/互成対︒六日異類対一・七日賦躰対−5−︒ 意不来学編中此其躰也云々︒已上律詩躰︑抄之了1内﹁偶吟詩躰如何︒答︑元し題而述三時之思懐一也︒又名二即事述懐偶成所思等一・︿即事詩於二前元題所明し之﹀︒

漫成︿杜律﹀

江皐已仲春花下復清晨仰し面負訓見鳥 回し頭錯認し人読レ書難字過対し酒満壺頻

近識峨媚老知二余獺是真一﹂

︵3︶躰−尊﹁体﹂︒

︵4︶偶吟−尊﹁偶﹂の右肩に○印二つ︑﹁吟﹂の左下に○印二つ︒

︵5︶色−底﹁有﹂をミセヶチ︑右秀﹁色﹂︒

︵6︶リヲー底﹁リヲ﹂の右妾﹁ヲ﹂︒

︵7︶此−尊﹁是﹂︒

︵8︶躰−尊﹁体﹂︒

︵9︶躰−尊﹁体﹂︒

二五︑廿九対の事

八日隻声対一・九日畳/韻対↓6︾︒十日廻文対︒十一日意対︒右

十一種古人同出二斯対一・/十二日平対︒十三日奇対︒十四日同対︒

ソク0ノハ十五日字対︒/十六日声対︒十七日側対︒右六種対出一元︵7︶

一一

競禮︷8|脳︽︒﹂︵上一六丁オ︶

ケイ十八日隣近対︷9|◎十九日交絡対︒廿日︑|当句対︒廿一日含境対一Ⅱ|・

ハイI/廿二日背躰︷哩対︒廿三日偏対︒廿四日隻虚実対圃一︒二十五日/

タリーー仮対︒右八種対出一皎︵M︶公詩議一・/廿六日切側対︒廿七日隻声

側対︒廿八日応︶畳韻側対︒/

タリーー右三種出皇崔氏唐朝新定詩格︒/

ナルニヲ

廿九日惣不対云々|陥一︒一々解釈一U広多故略之一⑱︒/

︻校異一︵上一六丁オ四行〜上一六丁ウ六行︶

︵1︶対躰−尊﹁対之体﹂︒内﹁対之躰﹂︒

︵2︶秘府論−内﹁古来有﹂︒

︵3︶秘府論東廿九種対−内﹁秘府論︿第三﹀云﹂︒

︵4︶聯綿対−底﹁聯綿﹂︒尊﹁聯綿対﹂により改める︒

︵5︶対−底.尊﹁詩﹂︒内﹁対﹂により改める︒

︵6︶対−底・尊ナシ︒内﹁対﹂により改める︒

︵7︶元−内﹁元﹂︒

︵8︶鵲−内﹁躰﹂︒

︵9︶対−底・尊ナシ︒内﹁対﹂により改める︒

︵岨︶日−底はミセケチ︑改めて右秀﹁H﹂︒

︵Ⅱ︶含境対−底.尊﹁境対﹂︒内﹁含境対﹂により改める︒

︵u︶躰−尊﹁体﹂︒

︵過︶隻虚実対−内﹁隻虚対﹂︒

(4)

一校訂本文一︵上一五丁ウ五行〜上一五丁ウ七行︶

贈答事

いかん問︑贈答︵1︶如何︒づ″リノもとラルルヲブルーヲモいくたびナリトキヰル|フルル

答︑自一人許贈し詩時答し之雌皇何度ゞ可レ用贈

ノヲ

上ニリニカキトス 詩韻也︒随し時依レ人珈可:存知也︒

一校訂注記﹈︵上一五丁ウ五行〜上一五丁ウ七行︶

︵1︶贈答如何︒答︑自人許贈詩時答之雌何度可用贈詩韻也︒随時依

人柳可存知也−内﹁贈答詩躰如何︒答︑人贈呈我於詩一・我答レ之

以レ詩則用一前韻一・名二之贈答一︑又名乏唱和も随し時依レ人靭可一

思慮一也﹂︒

一注︼贈答詩の詠み方について言うが︑どういう理由なのかは分からない

が︑これまでと違って﹁王沢不渇紗﹂を引用していないので︑その

四校訂本文

︵Ⅲ︶皎−底.尊﹁肢﹂︒内﹁皎﹂により改める︒︵巧︶日−底ナシ︒尊﹁日﹂により改める︒︵略︶惣不対云々−内﹁不対々也﹂︒︵Ⅳ︶釈−底.尊﹁尺﹂︒内﹁釈﹂により改める︒︵堅略之−内﹁略之也︒可:考見﹂︒

二三︑贈答の事

解説は簡潔すぎるきらいがある︒京都大学図書館蔵・内閣文庫蔵﹁王沢不渇紗﹂には︑最初の﹁贈答﹂以外は皆︑小字で︑

もと贈答︿人の許より詩を得るの時︵内閣文庫本は﹁詩﹂に作る︒

︵これ︶以下﹁内﹂とする︒︶之︵を︶答︵ず︶﹀︵いへども︶︵もちゐ︶︿常に︵は︶何度なりと雌︑本韻を用るなり︒時に随ひ人に

︵より︶︵これ︶︵これ︶

依て卿か存知すべき子細之有︵り︶︒口伝︵すべく︶少々之︵を︶

注︵す︶べし︒﹀

︿今朝三春の景を賦す︑四韻の篇を得たり︒手に随ふの詞︑金玉︵ひびき︶︵よろこば︶の響を兼ぬ︒目を悦しむるの曲︑錦繍︵内﹁鮮﹂︶の文を載す︒

︵や︶︵よつ︶︵あつ︶

唱和の興︑罷めんと欲するに能はず︒価て本韻を押す︒以て拙

才を綴るのみ︒﹀

︵ひら︶︵み︶︵そ︶

︿一篇の章を披︵内﹁致﹂︶くに万感の興を催す︒観︵れば︶夫︵れ︶︵いり︶︵なら︶風情玄に入て︑露詞白に慣ふ︒予が如き者︑素より鳳︵内﹁風﹂︶

毛の才に暗し︒未だ龍︵内﹁韻﹂︶文の曲を伝︵へ︶ず︒然︵りと︶︵なまじひ︶︵あつ﹀雌︵も︶眼に本韻を押して謹︵ん︶で拙和を献ず︒﹀︵けい︶︵あつ︶︿一首の瓊篇を押︵し︶四韻の拙什を和す︒悠に興味を催

︵す︶︒既に︵内﹁既﹂字ナシ︒一字アキ︶潮解を忌︵む︶のみ︒

︵このごろ︶頃日右大将軍︵内﹁軍﹂字ナシ︒一字アキ︶︑三冬の景気を

︵もてあそ︶︵たま︶

翫び六義の篇章を呈︵し︶玉ふ︒之を見れば錦繍︵内﹁綿﹂︶

︵まなこ︶︵さへぎ︶︵こゑ︶︵も︶︵だ︶︵た︶

眼に遮る・之を読めば金玉声有︵り︶・黙止︵する︶こと能︵へ︶︵つつしん︶︵あつ︶ず︒敬で本韻を押すのみ・﹀

さいつころ︵けい︶

︿近曽二品羽林亜将︑日野の霊窟に詣して︑風流の勝形を翫︵ぶ︶︒︵ここ︶︵ひそか︶︵とそう︶︵たちまち︶差に予倫に前日の斗藪︵内﹁忽﹂︶を思ひ︑忽に一時の感荷︵内

﹁荷﹂字ナシ︒一字アキ︶を動︵かす︶︒価て柳︵か︶所懐を述︵ベ︶

(5)

一 一

︵を︶︵けんか︶て推して硯下に奉︵る︶のみ︒﹀

れいれいく今朝九日の良節を迎︵へ︶て重陽の佳句を得︵たり︶︒玲々た

︵こ︶︵ママ︶えふえふ︵ひび︶

る玉の声え目を驚︵か︶す︒曄々たる金の韻き肝に銘ず︒以て

︵かんぱ︶︵たけなは︶

黄菊の馥しきを呈し︑以て清酒の酎なるを告ぐ︒感有︵り︶

︵あつ︶興有︵り︶︑和︵せ︶ざる能はず︒価て五言の本韻を押︵し︶て

さうりよ書っ一首の新詩を賦す︒蓋し是れ鳳凰の声を答︵ず︶るに鵜鵜の

︵さへづり︶︵しか︶

鴫を以てすと云︵ふこと︶が︵り︶・﹀︿九日重陽の節菊花開︵け︶始︵まる︶程

︵ころ︶せききう酒には黄蘂の興を浮︵か︶ベ衣も赤茱︵﹁茱﹂の音は︑シュ

ゑいき

が正しい︶の営︵内﹁営﹂字ナシ︒一字アキ︶を服る

魏帝恩を賜ふの宴陶公酔を勧︵む︶る声︵いかん︶︵かんこぐ︶︵ひと︶こころ如何ぞ甘谷の士上寿二千の情﹀

︿是れ其の風情なり︒上の句︵の︶第七︵の︶字︑或は第五の字︑

口伝すべし︒﹀︵原文は漢文︶

とある︒人のもとから詩を贈られた時は︑常に幾度であっても︑本

韻︵贈られた詩の韻︶を用いて︑和韻の詩を返すべきことをいう︒そ

して︑その和韻詩︵贈答詩︶の作り方についての口伝を記し︑競後に

実例﹁九日︑重陽の節﹂の詩をあげる︒韻字は︑程・営・声・情で

下平声八庚韻である︒

また︑京都大学図書館本・静嘉堂文庫本﹁王沢不渇紗﹂の注入本

の該当箇所の注は︑

︵あるい︶︵いふ︶︵きた︶

○贈答或は和韻とも云なり︒幾度詩を得るとも︑来る詩の韻

︵か︶にて幾度とも和韻の句に為︵す︶ベ︵き︶なり︒連句歎︑ふみ︵ず︶︵か︶︵そ︶︵かへ︶︵くるし︶はづし歎は︑夫れは替ても苦敷︵から︶ざるなり︒絶句ならば︑ 第二の句の終︵り︶の字︑第四の句の終︵り︶の字を︑其の得たる詩の第二の句の終︵り︶の字︑第四の句の終︵り︶の字を

︵まで︶か置︵く︶なり︒字迄替へざるなり︒五言の詩ならば九字以上︑

︵くるし︶七言の詩ならば十三字以上は文字をも替︵ふ︶べきなり︒苦敷︵か

ら︶ざるなり︒第二の句の終︵り︶の字を韻の字と云ひ︑第一の

︵くつ︶︵いふ︶︵あつ︶︵いふ︶

句の終︵り︶の字をば沓と云なり︒沓の平字なるを押すると云な

︵か︶り︒沓は押する歎と問へば︑連韻なれば押すると答︵ふ︶るなり︒

︵お︶︵いふ︶

ふみをとしなれば︑あっせぬと云なり︒他声の字に韻の字にし

︵いふ︶︵お︶︵いふ︶︵いふ︶

て作るとも連韻と云なり︒ふみをとしと云も︑沓の押すると云

︵いふ︶︵いふ︶

も︑不押と云も︑平字に順じて心得べ︵き︶なり︒押すと云連韻

︵いふ︶の事なり︒或︵ある︶人︵の︶詩︵に︶云︑座中に富士を見る︿屏

︵ある︶風に富士山の有を作︵る︶なり﹀︒

たびしょ

幾廻暑を避︵けて︶西風︵を︶引︵く︶日夜清遊幕下

︵ゆたか︶

豊なり

君見︵る︶一瓶三千の景士峰移︵し︶得︵たり︶席前︵の︶

いよいよ︵な︶︵ほ︶

仰︵げ︶ば愈高し遠山︵の︶風吹︵き︶て尚を錦宮城

︵ゆたか︶裏豊︵なり︶

武士︵の︶名誉文亦︵た︶広し龍恩先︵づ︶承︵る︶一吟︵の︶

︵そでがき︶今朝春の景を賦︵す︶る等は和韻の袖書の様なり︒金玉の響︵き︶

︵いふ︶きんしょう︵の︶

とは金言と云儀なり︒詩をほむる儀なり︒錦繍の文を裁すは︑

綾羅錦繍をたち千置︵き︶たる如しとほむるなり︒○唱和とは

(6)

︵いふ︶贈答と云儀なり︒唱は贈なり︒和は答なり︵と︶云々︒○次︵に︶︵つ︶§︵いふ︶袖書乃至︒玄︵に︶入︵る︶とは幽玄に作らるると云儀な

ならり︒○露詞とは︑あざやかなる詞なり︒○白を慣ふは︑白楽天

︵ママ︶︵か︶

にはし習︵ひ︶給︵ふ︶歎とほむる儀なり︒白と玄とは対なり︒

色対なり︒○鳳凰の毛とは文章の事なり︒鳳の五色九色にあざ

︵たと︶やかなる如くなる間︑文章に書︵ふ︶るなり︒○竜文も文章の

事なり︒文字を竜に臂︵ふ︶るなり︒○次の袖書に云︵ふ︶︒○

︵けい︶瓊篇は︑瓊は玉なり︒○六義の篇章とは︑風賦等の六義なり︒

︵ばか︶︵いふ︶︵か︶さいつころ

一義計り作︵る︶を六義と云は言惣歎︒○次の袖書︒○近曽︵こ︶︵ごろ︶︵いふ︶ほんとは此の比と云儀なり︒○二品は二位の事なり︒羽林は中将の

J串岬菩﹁J︐唐名︑亜相は大納言の唐名なり︒○日野の霊窟に詣でては︑霊

窟は日野の社の事なり︒○風流と遊山︵の︶興を取︵り︶成す事︒

けいすぐそう

○勝形は地形の勝︵れ︶たる事なり︒○前日の計藪とは︑仏道

︵いふ︶︵いふ︶

修行などの事︑霊窟︵に︶参詣する事を云なり︒先日と云間︑

︵いふ︶参詣の後日に云事なり︒○感荷は我が心ばせの事なり︒○九日

の良節とは九月九日の事なり︒○重陽とは月も九月︑日も九日︵いふ︶︵しか︶れいなれば云︵こと︶ホなり︒玲々たる玉の響︵き︶の事なり︒○

えい︵たけなは︶曄々たるとはあざやかなる事なり︒○酌なるとは酒もりの事

しうれうなり︒○鳳凰の声を答︵ふ︶とは得たる詩の事なり︒○鷆鶇と

︵いふ︶︵いふ︶

は︑かやく︑りと云小烏の事なり︒和韻を卑下して云なり︒○

ずいしゅ

黄蘂とは菊の花の事なり︒○赤茱営とは︑ぐみの木を腰にさし

て酒を呑むなり︒漢の武帝より始︵ま︶るなり︒ぐみは仙菓な

り︒魔王をののくなり︒営とはいとなみのことなり︒○魏帝とは︑

魏の文帝は九月九日に菊を酒に浮︵かく︶て飲まするなり︒○ ︵ママ︶︵ママ︶︵なく︶陶公酔を勧︵む︶る声とは︑陶公とは陶延命なり︒陶公酒元︵いふ︶︵ママ︶して菊を愛︵す︶る時︑王弘と云人酒を延命に勧︵む︶るなり︒

︵ひと︶︵てつ︶○如何︵ぞ︶甘谷の士は郵県の山より菊水甘谷へ流るるなり︒

︵いふ︶︵ここ︶

其︵の︶水甘味なる故に甘谷と云なり︒○寿二千の情ろを上る

とは︑彼の菊水を飲︵み︶ては二千年の齢なり︒中寿は千年の

寿命なり︒下寿は五百年なり︒二千年︑千年︑五百年の異︵なり︶

︵な︶は機根に依るなり︒菊水に異︵なり︶は元︵き︶なり︒今時分

百計七八十十五人︑人によって寿命ある心なり︒康耕清の韻なり︒

︵おとし︶○口伝︵す︶べきは︑今はふみ落なり︒又連韻にも作者の心に︵いふ︶︵これ︶依るべしと云儀なり︒是が口伝なり︒︵原文は漢文︶

とある︒前半は和韻詩︵贈答詩︶の具体的な作り方について述べ︑後

半は﹁九日︑重陽の節﹂詩の実例についての語釈である︒

︹校訂本文︸︵上一五丁ウ八行〜上一六丁ォ三行︶ごうぎんノ隅︵1︶吟事

ノノ問︑曙2︶吟躰︵3︶事如何︒

ニフ

ノし 答︑王沢抄云︑無題述懐篇是也︒

三月三日偶吟

ト︽ンテモしルトをりヲクンバノいまむなシ

桃李色︵4︶々雛し識し境無二詩酒興友今空

ホ︑ンリナリ

ニ旬有二官猶浅三月初三花独紅

と〆ヌテヲゾフはノノみづおキテヲひそか二ヅノ

停レ蓋先思巴字水閣レ筆倫恥魏文風 なげうツヤヲいなヤノハラいうノ 歌鴬舞蝶伽し吾否春意不し来学臓中 二四︑唱吟の事

(7)

︑ンテヲンヌ此︵5︶其躰︵6︶也云々︒已上律詩躰︵7︶︑抄し之了・

一校訂注記︼︵上一五丁ウ八行〜上一六丁オ三行︶

︵1︶隅−内﹁偶﹂︒

︵2︶隅吟躰事如何︒答︑王沢抄云︑無題述懐篇是也︒三月三日偶吟

桃李色々雌識境無詩酒興友今空二旬有二官猶浅三月初三花 独紅停釜先思巴字水閣筆倫恥魏文風歌鶯舞蝶弛吾否春意

不来学煽中此其躰也云々︒已上律詩躰︑抄之了−内﹁隅吟詩躰

如何︒答︑元し題而述息時之思懐︽也︒又名:即事述懐偶成所思等ゞ・

︿即事詩於前元題所・明し之﹀︒

漫成︿杜律﹀

江皐已仲春花下復清晨仰し面貧ゴ見烏一 回し頭錯認し人読レ書難字過対し酒満壺頻

近識峨媚老知二余獺是真﹂

︵3︶躰−尊﹁体﹂︒

︵4︶色−底﹁有﹂をミセヶチ︑右考﹁色﹂︒

︵5︶此−尊﹁是﹂︒

︵6︶躰−尊﹁体﹂︒

︵7︶躰−尊﹁体﹂︒

﹇注︼﹁隅吟﹂は﹁偶吟﹂に同じで︑ふと興がわいて詠んだ独吟の詩をい

う︒京都大学図書館蔵・内閣文庫蔵﹁王沢不渇紗﹂は︑

私に云ふ︑独吟の事なり︒無題・述懐の篇︑是れなり︒

︵原文は漢文︶

という︵ただし﹁喝吟﹂を両本とも﹁喝吟﹂に作る︶︒﹁隅﹂は︑あ ぎとう︑すなわち魚が水面で口をぱくぱくすることで︑という熟語もある︵読みは︑ギョギョウまたはググ︶︒の漢音はギョウ︑偶の漢音はゴウなので︑吟・偶吟はゴウギンと読み︑は偶の異体字とみるのがよいだろう︒

京都大学図書館本・静嘉堂文庫本﹁王沢不渇紗﹂の注入本の該当

箇所の注は︑

グウ

︵これ︶コウ

○隅吟︿元題述懐篇是なり﹀︒三月三日︒○偶吟︒○桃李色々︵をり︶︵し︶境︵を︶識︵ると︶難︵も︶は︑境は時分を知る儀なり︒境はしゅんゆう︵ほ︶時分なり︒○二旬有二の宮猶を浅︵し︶は︑二旬有二は廿二

︵ママ︶︵なほ︶

の事なり︒︿良李の年なり﹀︒宮猶浅︵し︶とは廿二になれど︵いふ︶︵ひとり︶も未官なりと云事なり︒○独紅とは桃花独りの事なり︒○

︵とど︶︵まづ︶は︵それ︶︵ながる︶

蓋を停めて先思ふは巴の字の水とは︑夫なり︑水流る間に︵それ︶︵ばか︶︵ふで︶︵おき︶詩ならねば恥に及ぶなり︒夫を思ふ計りなり︒○毫を閣て

︵ひそか︶楡に恥︵づ︶魏文の風とは︑前︵の︶如︵き︶なり︒魏の文

帝の巴峡の曲を恥︵づ︶るなり︒巴峡とは巴の字に似たる峡な

︵いふ︶︵なげう︶︵いなや︶

れば云なり︒○歌鶯舞蝶吾︵を︶伽つ︵や︶否とは︑鶯蝶未

︵か︶︵いふ︶だ来︵ざれ︶ば我をはしすてて有る歎と云心なり︒○春の意来︵ら︶

卜守つず学煽の中とは︑鶯来ずは春とは知らざるなり︒春︵の︶意︵に︶

︵いふ︶依︵つ︶て来らずと云なり︒学煽の中とは学文するまどの前へ

来らざる事なり︒以上呂部律部皆以︵て︶畢︵んぬ︶︒

︵原文は漢文︶

とある︒引用詩の七言律詩︑第三句目の﹁二旬有二﹂が二十二歳の

ことで︑これは﹁王沢不渇紗﹂の著者︑良季の年齢をいい︵底本は﹁季﹂

を﹁李﹂に誤る︶︑この二十二歳の時に引用詩﹁三月三日の偶吟﹂を作っ

(8)

京都大学図書館蔵・内閣文庫蔵﹃王沢不渇紗﹂には︑この﹁隅吟﹂

の項目の後に︵底本は﹁喝吟﹂に誤る︶︑﹁詩を講ずる事﹂︵講詩事︶が載り︑

連句について述べる︒今︑その本文を句読点等を付して引用する︵そ

の引用末尾に写本の国立国会図書館本との校異を示す︿略号は﹁国﹂﹀︒底

本とした写本の内閣文庫本の略号は﹁内﹂︑版本の京都大学図書館本の略号

は﹁京﹂︶︒

なお︑連句は︑二人以上で各々一句または二句︑または四句を

作り連ねて一聯・一篇をなすもので︑拙稿﹁平安時代の聯句﹂︵﹁金

沢大学大学院文学研究科研究論集﹂創刊号︑一九七五年︿昭和五十﹀三

月︶︑及び拙稿﹁平安時代の聯句の史的展開﹂二中古文学﹂第十六号︑

一九七五年︿昭和五十﹀九月︶参照︒ たことが知られる︒

なお︑﹇校異﹈に示した内閣文庫本﹁文筆問答紗﹂に引かれる杜甫

の﹁漫成﹂の詩は︑﹁杜少陵詩集﹂巻十に載る﹁漫成二首﹂の二首目

である︒そこでは︑三句目﹁見﹂は﹁看﹂︑四句目﹁認﹂は﹁応﹂に

作る︒講し詩事

トノ ヲスユルヲ二

︿客云︑連句者其様如何︒予云︑避レ声居レ韻次第准レ詩可レ知︒

大旨五言也︒二四︵1︶不同二六︵2︶対︒又七言連句尤稀也︒所謂

上クテリケタリ

朝候︵3︶日高冠額抜︑夜行砂重ンテ︵4︶沓ノ声忽ン︵5−︑此連句テヲ

トノト

也云云︒以レ此雌し為一七言例一近来七言連句元し︵6︶之︒皆以

フヲノ

ハ︑ノ五言也︒執筆言豊発句↓多分例也︒入韻亭︷7|主︑或座中高位 ︒トノノーナニケ/言し之・入韻者発句下半句也︒因し弦︵§略頌日︑執筆発句ノノ亭主入韻云云︒尋常会大旨用三巡句一・云一巡句一者一人不︵し︶

スルヲ

一丁用皇半句ゞ・一句三︷9|句等是也︒必用二重句︽二句四句是也︒於

ー︑卜リノニス

ノ二花月等名而︶字者一折面許・三︵Ⅱ︸字云云︒於:詞字者不

ニハノノニハ

ノヲノニハ レ嫌し之︑発句不レ用し対・如レ詩春会言春景︑夏会 プノヲ︑ンフノヲ

トフヲ

言夏景・若又言当座事b執筆間し字︷哩一度歎︒客云︑

一テニトナリ仮令発句躰如何︒就:四季雑等聞︑一両︵過︶句↓・予云永也︵M︶・﹀

ナカハナヲ

大藤萬春始携文楽未レ央鷺

ノコロヲヒ

ニ月芳非候有し花又有レ

ハコヨヒ

三月壷今夜紫藤下帳望

孟夏上旬候此時待三郭公一

ミナヅキノハラ上六月祓今夜毎に人祝宰万年↓︵脂︶

ノロ

秋来三四日想像一星情 テヲス

秋日以レ文会如何播岳情陥|

久︑一アーーフヲタマノ

当重陽翌日︽翫レ菊是如レ弥行︶

︑ン

雪裏閑遊好任他梁園冬

一一

スヲ

燈下逢冒文友一閑談動三故情・

祝言応︶

萬⑲︸悦好文世佳期与レ古同

(9)

ソモ︿連句発句︑大躰如レ此︒凡何不皇稽古・難し罰一成︒連句

一一一ア殊重し座︒入し功可レ翫し之︒不し然者易弓廃忘︒︵型事也云云︒

︑ノ

ヲカク

客云︑発句躰存知畢︒中間句︵聖又聞↓一両句・予云︷翌︑﹀

ー一花風一父母為し雨弱一鴫兄弟点し雲

ー画テハ二 春日詣春日夜行遇蔦夜行・

ハアカシリモ霞光殿し自レ火露色ハ越哺干殊二︷妬一 夏ルノモスハハジノチタ

魚戯蓮浮葉鴫鳴櫨立枝

ハレス︑シノキヌヲキズハタヲアヲク

衣是生衣生一︸扇加団扇々

ハクノキ︵ところ︶ハキスル

所し動同心扇故し帰如意輪

秋一型イクノノノイトススキミ

ノノキ 生野末絲薄深豹一山奥玉椿 フシヨクニノケルーノヒ 代し燭草蛍影薫レ衣蘭窮匂 オホヰノチハノリヅ 大井河紅葉小倉山翠松

久︑薊︶キシクレフル

ナノリル 時々時雨々夜々夜光々|別一 二ハトクヤフルハ卜 後凋松与レ栢先敗薫将レ蘭

ノリノチカヒ

広瀬龍田祭飛瀧熊野盟

ハナリ 千六百年鶴二三両月鷲東三條地静 ハナリ

北陸道途遥一越調調子八斉戒戒師 ノルハノッノハレンセィノミ 水清清水水泉冷冷泉泉

八角圓堂仏九重宝塔尊︵聖

ッノヲニタリノヲリ

︿客云︑聞司中間句も既得︽其意・有ド可き存知︷理事k乎︒

ソハノアラキヲ

ハワ々/

予云︑凡連句以:詞︶対鹿︽為皇下手ゞ・詩自雌し不し対大方

其句聞好許し之・連句毎し字可レ対し之︒縦︷妬一文字誌ハ︷妬一

ノノレハヲニハヒ

トモ雌し違以レ対為し佳︒仮令﹀二リ

西有鷺弥施仏.南無観世音

ノハヨ︑︑︑

ザハニヨム

︿此句︑上句読レ命︶点下句直読し↓遡之︒雛し然西南有無寄

一テ

ノヲリ

来対也︒価為し佳︒又不し存:随君異声字︑有し難き付句も﹀カラキズヲタヘニキ

唐衣朝夕衣 ハンハ︐ノ可

︿此句不レ存了異訓字ゞ不し可レ付︒所以者何詞一避レ声事二四不

ハスヲニハ

ー一

同対字事重点対:重点・同字対:同字・上句既第二第五

ノ入レハキヌトルハキルト字同一蛆一也︒下旬又可レ然︒衣字訓し衣平声︑訓し|Ⅲ|衣他盤一

十叩β|アノケノノ字.︑ン!〃ナラハ

声・価下句可レ置二如レ此字・若圃一先卿一仙韻︑﹀

ナッノアフキハヲアフク

夏扇古今扇 ノノハレハキト

ハクト0︿此扇字訓し扇︷拓一他︷㈹一声︑訓扇︽岬一平声ナリ︒価テ此句二付︷娼一

0レハノハノノ7

也︒唐与レ夏対し之夏字以:夏国義対し之︒此事可レ存歎四・二︑ンテノヲスート客云︑巳弁:其意欲し間:連句之躰実師一︒予云︑然也別5﹀

連句ノコロヲヒ

ノニル苧 仲呂下旬候︿執筆﹀雨中綴一一章↓︿亭﹀

ロカタカタ郭公声処々︿実兎一﹀杜若色方々︿広実魂一﹀ハケ〃ノラハナリリ雲聲石門洞︿実字詞一﹀月明履道坊弱一︿行季茄一﹀ハⅡノ0ノノ7卯花為:夏雪︿行字↓ぎ﹀南菊帯:秋霜ゞ︿実弱一﹀

手動メハ合歓ノ扇キ︿行︵弱一﹀ロー淑ムル来楽腸︿広︽帥一﹀シシクツノテンッレウノ可レ鋪青蔑箪︿亭︵囚﹀応し崎緑蓼&︶床ノ弓々〃︿−風情如レ此︒輪廻等同訶同躰︵國以皇上句ゞ糺レ之也嗣一︒又近来

(10)

ニヲ二戸D﹀︑

連句連歌優客好人翫レ之無一一別子細も連句付三連歌連歌︽6

ヲノ ハルハモメヲ二

付弐連句韻字賦物等如し常︒付事必不レ定冒句数・随石出来ゞ

実︒

Dノ︑/リナラヒニ

客云︑序躰願文等其様如何︒予云︑有口伝井目録・

ヒスヲノ二可し秘し之・件面等井目録左帖有し之突︒尻一﹀

一校異一︵1︶四−京﹁日﹂︑国・内により改める︒︵2︶六−国・内﹁九﹂︒︵3︶

朝候−国﹁催日﹂︒︵4︶重−国﹁厚﹂︒︵5︶忽−国﹁念﹂︒︵6︶元−国.

内﹁無﹂︒︵7︶亭−内﹁卓﹂︒︵8︶弦−国﹁慈﹂︒︵9︶三−内﹁二﹂︒

︵岨︶名−国﹁明﹂︒︵Ⅱ︶三−国ナシ︒︵吃︶字−国﹁学﹂︒︵過︶両−

国﹁両度﹂︒︵M︶永也−国ナシ︒︵巧︶六月祓今夜毎人祝万年−内

ナシ︒︵船︶情−国﹁腸﹂︒︵Ⅳ︶珠−国﹁蝶﹂︑内﹁孫﹂︒︵肥︶祝

言−国﹁祝﹂︒︵岨︶萬−国﹁可﹂︒︵別︶難−国﹁雛難﹂︒︵別︶忘−

京.内﹁忌﹂︑国により改める︒︵〃︶中間句−国﹁中間﹂︑内﹁中

闇句﹂︒︵羽︶予云−内ナシ︒︵別︶花−国﹁華﹂︒︵妬︶雨−国﹁母﹂︒ズ︑シマキル︵恥︶霞光般自火露色越干殊−国ナシ︒︵訂︶生衣生1京﹁主衣衣﹂︑

ス諺シノキヌ国﹁主衣衣﹂︒ルビを国により改める︒内﹁生衣生﹂︒︵羽︶秋−内ナシ︒

︵的︶深−内﹁御﹂︒︵別︶冬−内ナシ︒︵瓠︶々︵光︶−国のルビ﹁テル﹂

を補う︒︵胡︶八角圓堂仏九重宝塔尊−国ナシ︒︵羽︶存知−国﹁用

意﹂︒︵乳︶以−国ナシ︒︵坊︶縦−国・内ナシ︒︵弱︶読−国・内

﹁続﹂︒︵師︶読−内﹁続﹂︒︵銘︶読−内ナシ︑一字アキ︒︵釣︶何−

国・内ナシ︒︵㈹︶同−国﹁同字﹂︒︵似︶訓−内﹁誰﹂︒︵蛇︶他−内

﹁化﹂︒︵娚︶若−内﹁若也﹂︒︵︶先−国ナシ︒︵妬︶訓扇−国﹁扇

訓﹂︒︵妬︶他−内﹁化﹂︒︵卿︶訓扇−国﹁扇訓﹂︒︵囎︶付−京﹁什﹂︒ 国・内により改める︒︵⑲︶此事可存歎−国﹁事可存﹂︒︵型之躰突−国﹁少々﹂︒︵別︶然也−国﹁可然﹂︒︵兇︶実−国ナシ︒︵弱︶広実−国ナシ︑内﹁広﹂︒︵別︶実字−国ナシ︑内﹁実﹂︒︵弱︶坊−京﹁防﹂︒国.内により改める︒︵開︶行季−国ナシ︑内﹁季﹂︒︵師︶行字−国ナシ︑内﹁行﹂︒︵邪︶実−国ナシ︒︵開︶行−国ナシ︒︵帥︶広−国ナシ︒︵仇︶亭−国ナシ︒︵腿︶蓼−国・内﹁蕊﹂︒︵鮒︶同詞同躰−国ナシ︑内﹁司詞司躰﹂︒︵例︶也−国ナシ︒︵開︶連歌−京ナシ︒国により改める︒︵㈹︶実−国ナシ︒

多数の連句の例が挙がっていてたいへん貴重である︒また︑﹁大旨

五言なり︒二四不同二六対︒又七言連句尤も稀なり﹂︵原漢文︶とあり︑

これは︑﹃江談抄﹂第六・七二︑七三の﹁連句﹂の例を見ると︑七言句

が一聯︑五言句が十三聯と一致していて︑この﹁王沢不渇紗﹂の指

摘の正しいことが裏づけられる︒さらに︑﹁千六年の鶴︑二三両月の鴬﹂

の聯は﹁江談抄﹂にも載り︑﹁伝藤原忠通筆葦手下絵往来書巻﹂にも

引かれ︑﹁古来の口談なり﹂とある三聯のうちの一つである︒

次に︑﹁詩を講ずる事﹂に関する京都大学図書館本・静嘉堂文庫本

﹁王沢不渇紗﹂の注入本の該当箇所の注は︑

︵こ︶︺︵ママ︶

○講詩︵の︶事は︑詩の会には講師読師とて二人あり︒読詩

み︑は詩をよみ立つるなり︒講師は詩の善悪を披露し吟︵ず︶るな

︵たて︶︵たつ︶

り︒読師︑題をよみ立て名字等を誰ぞとよみ立るなり︒講師は

︵うけ︶︵とり︶︵な︶

言葉を請取て吟じ披露するなり︒幾度も作し已前︵の︶如

︵たつ︶︵く︶題名字をよむなり︒題をよみ名字を云ひ詩をよみ立るなり︒

(11)

惣座へ披露するをば講師がするなり︒惣座へ披露するを披講と

︵いふ︶云なり︒呂の部律部畢︵んぬ︶︒○連句の事︑二四不同二九に対

︵たけ︶に作るなり︒○朝侯日高て冠の額は抜︵けたり︶︒︿文﹀・是れ

発句︵なり︶︒朝侯︑朝になれば王へ星のあるに出仕するに︑は

や日高て出仕すれば冠も法にかむられざればぬけたるを其︵の︶

︵いふ︶︵ひ︶ま︵な︶

任置︵き︶て出仕するを云なり︒押し直すべき隙元き故なり︒

いそがは︵いそがし︶

夜行砂厚の沓の声念しとは︑夜番人しげくして急ぐ歩︵く︶に︵いふ︶︵しか︶ノ依︵つ︶て云永なり︒沓声あまたの故なり︒砂厚︵く︶し

ては︑内裏の庭には砂を厚くしくなり︒○奉公とは星を見て出

て星を見て返る︒風に髪を杭る雨にいするぎすと︒︿文﹀︒いす

るぎとは︑雨を其︵の︶任びんだらいにすることなり︒連句は

執筆が発句を致せば︑脇の句は亭主なり︒引︵き︶次︵ぎ︶引︵き︶︵よつ︶︵いふ︶次︵ぎ︶一人して一句づゞするなり︒依て連句と云なり︒百韻

︵おか︶するなり︒又は附六韻もするなり︒連句は発句に韻の字をば置︵おく︶︵ごとき︶ざるなり︒脇の句の終︵り︶に韻を置なり︒詩の如なり︒下三

︵おおい︶えらぶ︵いふ︶︵な︶

連大に商なり︒連句に連韻と云沙汰一向︵に︶元きなり︒大︵より︶えらぶ韻病︑繁説の病︑此等詩自も深く商なり︒○繁説の病とは韻の

字の外なる字の同字の事なり︒○大韻病とは韻の字の韻でする

︵より︶が大韻病なり︒字も韻の字と同字なれば字も同じ︒韻も元自

︑え・均ぶ同︵じ︶なれば大韻のもあり︒繁説でもあり︑大︵いに︶商な

り︒○入韻とは亭主がするなり︒脇の句の事なり︒韻をば脇の

︵いふ︶句にするなり︒第二の韻は脇の句と云なり︒○花月等の名字は

︵ある︶︵ママ︶︵か/︑︶

名有なり︒月花霜雪の景物なり︒一百韻の書様︑紙四牧に書

︵ママ︶なり︒一折とは一牧なり︒花月等の体ある字をば一面に三字迄 ︵おく︶は同字を許すなり︒詞の字をば何字をも置なり︒之︵を︶嫌︵は︶

︵すぎた︶ざるなり︒体の有る字をば三字を過らば置かざるなり︒同字は

︵くるしか︶五句さりなり︒六句目には同字苦敷ざるなり︒同字も一句の

内ではするなり︒句を隔て五句の内には致︵さ︶ざるなり︒同

︵おなじ︶趣の四句去るなり︒四句の内で義の趣の同なるをば致︵さ︶ざ

るなり︒百韻の内で終︵り︶の二句は祝言をするなり︒連句の︵さだめ︶︵おもて︶定事なり︒面十句の間は当季々々の景をするなり︒○一の

︵かく︶紙の面は十二句︑裏には十六句書なり︒都合廿八句なり︒二

︵かく︶の紙には表にも裏にも十六句づ︑書なり︒都合舟二句なり︒三

︵これ︶の紙︑是も表裏に舟二句︑二の紙の如︵き︶なり︒四の紙は面

︵すべて︶︵かく︶

には八句なり︒裏には惣の人数の名を書き句数を書なり︒紙

︵ママ︶あはなそく

四牧に合︵せて︶為︵して︶百韻なり︒○大蕨とは正月の異

名なり︒執筆︑発句をするなり︒○文を携︵へ︶て楽︵し︶み

なかばみなづきはらい

未︵だ︶央ならず︒︿平陽唐韻﹀︒亭主するなり︒○六月祓今

︵いふ︶みそぎ

夜とは︑六月晦日にちのわのみそぎと云をするなり︒御祓とは︑︵その︶はらいちがやを輪にして頭より足へこかしぬいて其後︑祓をするな

︵これ︶︵いふ︶みなづきはらいち

り︒是祝言なり︒歌︵に︶云︑六月の名越の祓する人は千年

︵のぶ︶︵いふ︶の命延ると云なり︒︿文﹀︒上の一行は発句︑下の一行は入韻よく︵つぎの︶なり︒○重陽九月九日の翌日︑次日の事なり︒○梁園とは梁王

の兎園の事なり︒梁王︑兎園にて雪を翫︵ぶ︶なり︒○故に情

︵いふ︶とは昔物語なり︒○予云︑題は春︒○花の父母は雨︵と︶為

けいてい︵り︶鴫の兄弟雲︵を︶点︵ず︶とは︑花に鴉が対︵す︶るなり︒

父母に兄弟が対︵す︶るなり︒雨︵と︶為︵り︶と雲を点︵ず︶

とが対︵す︶るなり︒詞の字に対し︑実の字は実の字に対︵す︶

(12)

i

一校訂本文︼︵上一六丁オ四行〜上一六丁ウ六行︶

廿九対事 フノ

問︑対躰︵1︶如何︒

︵か︶︵ごと︶

るなり︒余の句︑何も此︵くの︶如︵き︶なり︒連句は字毎で

︵より︶対︵す︶るなり︒然る間︑初心の為には詩自こはきなり︒○︿偉

き︵ところ︶︵いふ︶

句﹀所動同心扇︑︿入句﹀版する枚は如意輪とは︑同心と云

じゃに如意が対︵す︶るなり︒如意も同儀の故なり︒○蘭欝とは癖︵あやし︶︵いふ︶香の事なり︒○西南有無奇来の対なりとは︑奇き特と云儀な

︵いふ︶り︒○中呂は四月の異名なり︒○杜若は︑かきつばたと云草な︵い︐③り︵いふ︶り︒○石門洞と云も︑履道坊と云も︑白楽天の居所なり︒盧

かう山に有るなり︒○手に合歓扇︵を︶動︵かす︶とは︑合歓とは

さい扇の事なり︒班女︵が︶詩に扇の事を裁して合歓と為︵す︶︒︿文﹀︒

へってん○来楽とは蓋の異名なり︒○青蔑萱とは︑たかむしろの事なり︒

れい︵か︶○緑蕊は床の異名なり︒風情は此︵くの︶如︵し︶︒輪廻等と

は近輪回︑遠輪回の二つなり︒二︑三句の間で前の義理の如く作

︵いふ︶︵る︶を近輪回と云︒一紙二紙等隔て︑以前の義理の如くするを

︵いふ︶︵ふたつ︶︵おなじ︶えらぶ

遠輪廻と云なり︒二ともに義理を同く深く簡なり︒○優客︵いふ︶︵いふ︶と云も上手の事を云なり︒

王沢不渇紗上終︵原文は漢文︶

とある︒連句︵聯句︶の詠み方の作法が︑注釈の合間に詳しく述べ

られていることに注目したい︒ ーーノアリ

ハヰルヲ

答︑秘府論一ゾニ廿九種対・近代用一一十二対一也︒

ノノ問︑廿九種対様如何︒

一ハいプてきめいトタゾク卜答︑秘府論東廿九種対︷3|︑一日一的名対・︿亦名↓正名対・

タヅケトニハいソトニハいうトニハい 亦名:正対寺︒二日:隔句対︒三日:塗擬対︒四日: フめんトニハいうごせいトニハいゾトニハいうふたい

聯綿対二︽4︒五日︒|互成対︑︒六日二異類対︽・七日ご賦躰

ニハいうトニハいうトニハいう卜

対二5︶︒八日暑隻声対も九日:畳韻対差6︶︒十日ご廻文対︽・ニハいフ.︑︲十一日菖意対も

ジクスこノヲ

右十一種古人同出当斯対・ ニハいうトニハいうきトニハいうトニハいソ 十二日:平対も十三日:奇対b十四日:同対︽・十五日:

ニハいう卜一ハいゾそく卜

字対・十六日:声対・十七日:側対・ ノハヅげんきよう一一

右六種対出一元−7|競鐙呂一脳︽・

ニハいうりんこんトニハいうトニハいう卜

十八日二隣近対一︵9︶︒十九日二交絡対b廿日一︵り当句対一・

ニハいうが人けいトニハいうはいトニハいうト

廿一日弓含境対︷皿一︒廿二日皀背躰画︸対・廿三日皇偏対もニハいブさうきよじつトニハいうか卜

廿四日:塗虚実対画↓︒二十五日を仮対b ノハタリかうこう二

右八種対出皎↓M|公詩議↓・

廿六日二切側対↓・廿七日一隻声側対も廿八ニハ日﹃︵旧畳韻側対も

ニハいうトニハいブトト ハタリガニ

右三種出:崔氏唐朝新定詩格bニハいう・卜卜廿九日一↓惣不対ゞ云々︵哩︒

ナルニスヲ

一々解釈︵U広多故略し之E︶︒

﹇校釘注記︸︵上一六丁オ四行〜上一六丁ウ六行︶

︵1︶対躰−尊﹁対之体﹂︒内﹁対之躰﹂︒

︵2︶秘府論−内﹁古来有﹂︒

︵3︶秘府論東廿九種対−内﹁秘府論︿第三﹀云﹂︒

︵4︶聯綿対−底﹁聯綿﹂︒尊﹁聯綿対﹂により改める︒

(13)

︵5︶対−底.尊﹁詩﹂︒内﹁対﹂により改める︒

︵6︶対−底・尊ナシ︒内﹁対﹂により改める︒

︵7︶元−内﹁元﹂︒

︵8︶鵠−内﹁躰﹂︒

︵9︶対−底・尊ナシ︒内﹁対﹂により改める︒

︵皿︶日−底はミセヶチ︑改めて右妾﹁日﹂︒

︵Ⅱ︶含境対−底.尊﹁境対﹂︒内﹁含境対﹂により改める︒

︵岨︶躰−尊﹁体﹂︒

︵過︶鑿虚実対−内﹁隻虚対﹂︒

︵M︶皎−底.尊﹁肢﹂︒内﹁皎﹂により改める︒

︵旧︶日−底ナシ︒尊﹁日﹂により改める︒

︵肥︶惣不対云々−内﹁不対々也﹂︒

︵Ⅳ︶釈−底.尊﹁尺﹂︒内﹁釈﹂により改める︒

︵肥︶略之−内﹁略之也︒可重考見・﹂︒

︻注︸平安時代になると︑これまでの古文に対して︑対句を中心にした

文章︑すなわち餅催文が盛んに作られるようになる︒四字と六字が

好んで用いられたので四六文︑四六餅偲文ともいわれる︒

対句は餅偲文の中心にあって︑種々の技巧が凝らされる︒﹁文筆問

答紗﹂は真言宗の開祖︑弘法大師空海︵七七四〜八三五︶の編纂にな

る詩論書﹁文鏡秘府論﹂﹁東巻・論対﹂の﹁二十九種対﹂を引いてい

るのみで︑

一々の解尺広多なる故に之を略す︒︵原文は漢文︶

と言って︑二十九種類の対句の方法や内容について︑その説明を省 略する︒大曾根章介氏は︑ヨ秘府論﹂の二十九種対は多岐に亙る上に類似のものが散見するので適当とは思われない︒﹂と言われ︵﹁平安時代の四六餅偲文﹂︿﹁中央大学文学部紀要﹂第七十一号︑一九七四年︵昭和四十九︶三月﹀・後︑﹁大曾根章介日本漢文学論集第一巻﹂︿汲古書院︑一九九八年︿平成十﹀六月﹀所収︒なお︑同書には﹁漢文の修辞﹂という論考も収録されている︶︑大曾根氏自らが﹁文鏡秘府論﹂や﹁作文大体﹂などを加えて考察している︒大曾根氏の指摘を適宜引用しつつ︑また︑興膳宏訳注﹁弘法大師空海全集第五巻﹂︵筑摩書房︑一九八六年︿昭和六十二九月︶所収の﹃文鏡秘府論﹂の﹇注﹈によりつつ︑﹁二十九対﹂をみてゆくことにする︒てきめいついせいめいついせいつい第一の的名対は︑正名対・正対ともいう︒反対の意味の語句を

はんつい対偶させるものである︒﹁文鏡秘府論﹂﹁北巻・論対属﹂に﹁反対﹂

としてあがる上と下︑尊と卑︑有と無︑同と異︑去と来︑虚と実︑

出と入︑是と非︑賢と愚︑悲と楽︑明と闇︑濁と清︑存と亡︑進と

退などの対である︵第六﹁異類対﹂参照︶︒これらは我が国の詩文の対

句の中では最も頻繁に用いられるものである︒第二の隔句対は︑二

句の対による単対︵直対︶に対して︑第一句と第三句︑第二句と第

四句とが対をなすもので︑一句を構成する字数によって次の六種類

に分類される︒

①軽隔句︵上句四字下句六字の句を二回繰り返すもの︶

②重隔句︵上句六字下句四字の句を二回繰り返すもの︶

③疎隔句︵上句三字︑下句は特定の字数としない二句を繰り返すもの︶

④密隔句︵上句は五字以上︑下句は六字以上の二句を繰り返すもの︑また

は上句は特定の字数とはせず︑下句は三字とする二句を繰り返すもの︶

(14)

⑤平隔句︵上下句とも四字または五字の二句を繰り返すもの︶

⑥雑隔句︵上句は四字︑下句は五・七・八字の二句を繰り返すもの︑また

は下句四字︑上句は六・五・七・八字の二句を繰り返すもの︶

この隔句対は︑﹁和漢朗詠集﹂や﹁新撰朗詠集﹂の章句のほとんどがそうぎついこれに属していて︑流布の広さが知られる︒第三の隻擬対は︑同一

句の中に︑一字ないし二字を間にはさんで同じ字を用いる対句法で

れんめ入ついある︒第四の聯綿対は︑同一句の中に同じ字を連続して用いる対句

法である︒類従本﹃作文大体﹂に﹁一句の中に同字有り︒上下同じ

からず︑離れて之を読む﹂とあり︑﹁文鏡秘府論﹂に﹁聯綿対とは︑

あひちょうじ

相絶えざるなり︒一句の中︑第二字・第三字の是れ重字なるを︑即

ち名づけて聯綿対と為す︒但し上句此くの如くなれば︑下句も亦た

然り︒﹂とあり︑一句の中の第二字と第三字が重字となる句法を言う

とするが︑これに限らずすべての連語に適用される︒すなわち︑連

続した同字が一語としてではなく︑意味の上で独立しそれぞれ別の

ごせいつい働きをするものを聯綿対と言う︒第五の互成対は︑二字の間で互いあいなに対称になっている連語を各句に用いる対句である︒互いに相成す

対ということで︑上下の句の間で対偶を成しているものをいう︒第

いるいつい六の異類対は︑第一の的名対が﹁天﹂と﹁地﹂︑﹁日﹂と﹁月﹂のよ

うに︑同一範晴にあって対称性︵もしくは近似性︶の明確なものを対

句として組み合わせるのに対して︑これは﹁天﹂と﹁山﹂︑﹁烏﹂と﹁花﹂

のように︑一見してはっきりしたコントラストをなさぬものを取り

合わせる︒すなわち相対する両語の意味範晴を異にする対句である︒ふたいつい第七の賦躰対は︑重字・畳韻・隻声を用いた対句で︑賦の形体に似

ているところからこの名がある︒この三種はいずれも擬態語あるい は擬声語として用いられることに共通性があるが︑中国語では音韻上美感を与えるものとして古代から盛んに使用されている︒第八のそうせいつい隻声対は︑頭子音を同じくする字︵隻声語︶を熟字として対に置く

じょういんついもので︑前出の賦躰対の一部を成す︒第九の畳韻対は︑韻尾を同

じくする字︵畳韻語︶を熟字として対を構えるもので︑墜声対と同じ

かいぶんついく︑賦躰対の一部を成す︒第十の廻文対は︑同じ言葉を︑上句と下

いつい句で位置を反転させて構成した対句をいう︒第十一の意対は︑語自

体には対属性はないが︑意味の上では対句を成すものをいう︒

以上︑第一の的名対から第十一の意対に至る十一対は︑﹁文筆式﹂

を中心にしてまとめられたものであろうと考えられている︒

へいついきつい

第十二の平対は︑次の奇対を意識してつけられた名称で︑オーソ

ドックスな対句︵﹁平常の対﹂という︶という意味である︒したがって︑

﹃文鏡秘府論﹄に挙げられた例も︑既出の的名対に属するもので︑﹁平きつい対﹂の独自性は見出だし難い︒第十三の奇対は︑平対に対するもの

で︑常識的でない一風変わった対句という意味である︒ある一組の

語が二重の意味で対を成すものをいう︒すなわち︑対句の中のある

ど・っつい部分がさらに別の対偶を成すものである︒第十四の同対は︑﹁作文大

体﹂が﹁山野江海なり﹂と説明するように︑同類の性格を持った字

︵同義語・同類語︶の対を成すもので︑先の正対︵的名対︶や異類対

ほど際立った対属ではなく︑近縁関係にあるものをいう︒第十五の

岬しつい字対は︑二つの語が意味上は何の対応関係がないが︑その字形が対

属を成すものをいう︒用字の形態上の特質によって成立する対句で

せいついある︒第十六の声対は︑二つの語が意味上は何の対応関係もないが︑

音を等しくする字によって対属を成すものをいう︒﹁作文大体﹂では

(15)

おんついそくついひようよく

﹁音対﹂と言う︒第十七の側対は︑﹁文鏡秘府論﹂の説明に﹁鵺蝿︿地

りよ・つしゆごとこれ名︑右輔に在るなり﹀︑龍首︿山名︑西京に在るなり﹀の若し︒此

は鵺字の半辺に馬有るが為に︑龍と対を為し︑栩字の半辺に羽有りて︑

首と対を為す︒﹂とある︒このように︑本来の漢字の意味では対にな

つくりらないが︑字形の一部︵偏あるいは妾︶が対応するところから対

と見なすものをいう︒﹁側﹂は︑かたよる意である︒

へいついそくついげんきょう

以上︑第十二の平対から第十七の側対に至る六対は︑元競の﹁詩

髄脳﹂による分類である︒

りんこんつい第十八の隣近対は︑二句に詠まれている事柄や境地等が互いに近

こうら〃くついい関係にある対句のことである︒第十九の交絡対は︑上下二句の語

からが一つ一つ対応するわけではないが︑語が上下絡み合いつつ対偶が

とう〃︐︑つい成り立つものをいう︒第二十の当句対は︑一句の中で対偶を成すも

で︑ちゅうついがんけいつい

のをいう︒いわゆる句中対をいうのであろう︒第二十一の含境対

はいたいついは︑描かれる対象︵境︶を包みこむ対をいう︒第二十二の背躰対は︑

へんつい相背くもの同士が対を成す場合をいう︒第二十三の偏対は︑字と字︑へんぱかたよ語と語が逐一対応する円満・完壁な対句ではなく︑偏頗な︑偏っ

た対句ということである︒例えば︑重字に対して墜声あるいは畳韻そうきょじつついで応ずるような対偶である︒第二十四の盤虚実対は︑二つの実体

のない事柄︵虚︶が句中で対を成し︑二つの実体のあるもの︵実︶

が句中で対を成すものをいう︒さらに︑二つの虚と二つの実が︑両

かつい句間で対偶を成すものをいう︒第二十五の仮対は︑意味の上からい

えば対を成さないにもかかわらず︑文型の上での対応がひとまず成かしやり立っているもので︑﹁仮﹂は﹁仮借﹂の意であろうという︒

こうねん以上︑第十八の隣近対から第二十五の仮対に至る八対は︑皎然の﹁詩 ︻付記一

本研究は平成二十七年度日本学術振興会科学研究費補助金︵基盤

研究︵C︶︶JSPS科研費23520254の助成を受けたもので

ある︒

前稿は︑﹁北陸古典研究﹂第三○号︑二○一五年十一月刊︒ 議﹂に基づく︒

せつそくつい第二十六の切側対は︑二組の連語がそれぞれの意味するところに

おいては対を成さなくても︑一字一字は対を成しているものをいう︒そうせいそぐつい第二十七の隻声側対は︑字義の上では無関係であるが︑隻声とい

じよういんそ︒くついう音声の面で対を成すものをいう︒第二十八の畳韻側対は︑字義の

上では無関係であるが︑畳韻という音声の面で対を成すものをいう︒

以上︑第二十六の切側対から第二十八の畳韻側対に至る三対は︑

崔融の﹁唐朝新定詩格﹂に基づく︒そうふつい第二十九の惣不対は︑対偶の技法によらないものをいう︒これを

二十九種の対句の一つに組み込んだのは︑興膳宏氏によると︑﹁文鏡

秘府論﹂の編者空海の創見であったと言われる︒

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