チベットにおける「ヴァジュラーヴァリー」所説の マンダラの作例と系譜

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チベットにおける「ヴァジュラーヴァリー」所説の マンダラの作例と系譜

著者 森 雅秀

雑誌名 宮治昭先生献呈論文集編集委員会[編] 汎アジアの

仏教美術

ページ 150‑171

発行年 2007‑12‑01

URL http://hdl.handle.net/2297/36873

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﹃ヴァジュラーヴァリー﹄寮骨弩呂︶は︑インド後期密教を代表する学僧アバャーヵラグブタ室︶盲電四宮冒碧で富

二世紀後半〜三つ?︶による大部のマンダラ儀軌書である︒マンダラを制作するプロセスと︑それを用いて行

われる一ろの儀礼︑アビシエーカ︵号冨切①冨灌頂︶とプラティシュター︵胃胃違惠尊像等の完成式︶などを解

︵1︶説する︒インド後期密教の儀礼の実態を知るためのもっとも重要な文献のひとつに数えられている︒

この文献の中には︑当時知られていた代表的なマンダラについて︑実際にそれをどのように描くかがくわしく

説かれている︒﹃ヴァジュラーヴァリー﹂に説かれるマンダラは︑代表的なものを数えると二六種であるが︵表

l︶︑中尊の変更︑周囲の尊の増減などによって︑さらに細分化される︒詳しい説明は省略し︑典拠となる経典

を参照するように指示する場合もある︒チベットではこれらを含め︑﹃ヴァジュラーヴァリー﹄に説かれるマン

ダラの全体の数を四一とすることが多い︵表2︶︒アバャーカラグブタ自身は﹃ヴァジュラーヴァリー﹄の中でマ

チベットにおける﹃ヴァジュラーヴァリー﹄ 所説のマンダラの作例と系譜

一はじめに 森雅秀

Z50

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『ヴァジユラーヴァリー』所説のマンダラの作例と系譜 卜における

て あ い る る C

O マ チ ベ ッ

︵ず富ご画冒四目旨含﹈︶を解説する︒マンダラの種類やマンダラが説かれる順序は︑両書のあいだでまったく同じで

●●ある︒マンダーフに含まれる諸尊の図像学的な特徴は︑この﹃ニシュパンナョーガーヴァリー﹄に詳細に述べられ

アバャーカラグブタの時代からおよそ百年後には︑仏教はインドからほとんど姿を消してしまう︒﹃ヴァジュ

ラーヴアリー﹂や﹃ニシュパンナョーガーヴァリー﹄はその間︑インドで流布していたはずであるが︑これらに ンダラの数を明示しないため︑この数え方が彼にまでさかのぼることができるかどうかは明らかではない︒

アバヤーカラグプタにはマンダラの

観想法を説く﹁ニシュパンナョーガー

ヴァリー寅雲名四目ご星︒温く画包の著作

もある︒この書は﹃ヴァジュラーヴァ

リー﹄と密接な関係を持ち︑﹁ヴァジュ

ラーヴァリー﹄が儀礼のための﹁描

かれるマンダラ﹂︵︸爵ご四国g曾冨︶

を説くのに対し︑ラーシュパンナョー

ガーヴァリー﹂は行者が瞑想の中で

作り上げる﹁観想上のマンダラ﹂

Z5Z

No. マンダラの名称

1 Ma両uvajramandala

2 PindT1で了角mokta‑aksobhvam兜n.分1忽 3 SrIsamputatantrokatavajrasattvama"ala

4 Jh且nad且腫nImandala二二

5 Hevajramandala 6 Nair且tmy且mandala 7 Vajr且mrtamandala 8 Hevajramanjala 9 Mahamayamanjala 10 Buddhakapalamandala 11 Vajrahnmkaramanjala 12 SBmvaramandala 13 Buddhakapalamandala 14 Yb貫豆mbaramandala 15 Y2m且Y・imanjala 16 Vairat且r且mandala 17 M豆rICImandala 18 Pancaraks且mandala 19 Vajradh且tumandala

20 Tricatvarimsadatmaka‑mafijuvajrama"ala 21 DharmadhatuvagISvaramandala

22 DurgatipariSodhanamanjala 23 Bhntad且maramandala 24 Pancad且kamandala 25 Satcakravartinmandala 26 K5いCakY・劇、急ndHla

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もとづいてインドで制作されたマンダラの実際の作例は︑これまで知られていない︒アビシェーヵやプラティシュ

ターなどのために作られたマンダラは︑儀礼の終了とともに壊されることが定められていたため︑やむを得ない

が︑それ以外の絵画や壁画︑彫刻などもまったく残されていない︒しかし︑これらの文献の中でアバャーヵラグ

ブタが体系化したマンダラについての情報は︑インド密教の伝統を継承したチベットやネパールの仏教に忠実に

伝えられ︑重視された︒﹃ヴァジュラーヴァリー﹄にもとづいてアビシェーカやプラティシュターの儀礼が行わ

れたことも︑いくつかの文献に記されている︒そして︑チベットではタンカ︑ネパールではパタと呼ばれる絵画

表2『ヴァジュラーヴァリー」の42種のマンダ ラと『阿闇梨所作集成jの3種のマンダラ

ACR:Acaryakriyasamuccaya

※最後の列の「ゴル」の記号と番号は、表3のはじめの列に 対応する

Z52

恥 NQ マンダラの名称 ゴ ル

1 1 Ma句uva]ra 11

2 2 PindIkramokta‑akSobhya 13 3 3 SrIsamputatantrokatavajrasattva Ⅵ‑1

4 4 J高局面n月員1rin丁 X‑5

5 5 6 7 8

Garbhahevajra Cittahevajra Vakhevajra Kayahevajra

V 1 Vも2 V 3 V 4

6 9 10 11

Nair鼠tmya Nair且tmya Kuruk'】11月

IV1 IV2 IV3

7 12 13 14 15

Vajramrta Vajrahnmkara Vajraheruka AmT・taklmda1in J ■ −

IX−l IX−2 IX−3 IX−4

8 16 17 18 19

Garbhahevajra Cittahevajra V量khevajra K且yahevajra

11‑1 11‑2 11‑3 11‑4

9 20 Mah愚、且y颪 X‑3

10 21 R,, J制胎動1r動n頁1負 X‑2

11 22 Vajrahdmkara Ⅵ1‑4

12 23 24 25 26 27 28

Samvara CakY・asamvara Cakrasamvara Vajrav颪r量hI Vajravヨr且hI Vajrav且rヨhI

VI−2

Ⅵ‑3

Ⅵ‑4 VII‑1

Ⅵ1‑2 VII‑3

13 29 例月胎動世負n員1角 X−l

14 30 Ybg豆mbara X‑4

15 31 Yhm員ri 1‑4

16 32 Vajratar且 IV4

17 33 M且宜CI XIII‑4

18 34 Pa5函廻ks員 XIVl

1935 Vajradhatu XIII‑1

20 36 Tricatvarimsadatmaka‑manjuvajra 1‑2 21 37 Dharmadh量tuvaglsvara■ ■ 一 〃 XII 22 38 DurRatiparisodhana XIII‑2

23 39 Bh画tad員mara XIII‑3

24 40 Pa丘c2.月k盆 111

25 41 Satcakravartin V111

26 42 K副囲哩k了盆 XI

ACR 43 44 45

V2g'1.h月函 Graham且trk且 UgniSavijay5

麺 V 2 XIV3 XIv4

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卜における『ヴァジュラーヴアリー』所説のマンダラの作例と系譜

チ ベ ッ

作品として︑これらの文献にしたがって多くの彩色のマンダラが描かれ︑その一部は現在まで伝えられている︒

本稿では﹃ヴァジュラーヴァリー﹄やラーシュパンナョーガーヴァリー﹄にもとづいて描かれたこれらのマン

ダラについて︑特にチベットで制作された作品にどのようなものがあるのかを紹介し︑その制作背景︑文献との

︵旬色︶︑対応︑作品相互の関係などを明らかにする︒チベットではマンダラ以外にも︑マンダラの主尊のみを描いた絵画

作品がある︒これらもマンダラに準ずる作例としてあつかうことにする︒

﹃ヴアジュラーヴァリー﹄に説かれるマンダラとして︑現存する最古の作品はプトン︵三き〜三色とラマダンパ・

ソナムゲルッエン︵?〜三ごゆかりのタンカ・セットである︒一三点が現存することがシ国呈①曙によって示さ

︵3︶れ︑そのうちの四点の図版も同論文に掲載されている︒四点の内訳は︑ブッダカパーラ二五尊マンダラ︑ブッダ

カパーラ九尊マンダラ︑ジュニャーナダーキニーマンダラ︑﹃サンプタタント一こ諸説の金剛薩唾マンダラであ

る︒筆者が確認できた図版もこの四点に限られるが︑このほか︑アメリカ合衆国の個人蔵のクルクッラーマンダ

ラにも西①︸︸①曙は言及している︒しかし︑全体が何点で構成されていたのか︑また︑その順序がいかなるものであっ

たのかは明らかにされていない︒現存する二一点のうち︑確認できなかった残りの八点についても︑詳細は不明

である︒筆者が確認できた図版によれば︑いずれも一枚のタンカに一点のマンダラが中央に大きく描かれ︑そのまわり

に大小の円形の区画を蔓草で作り︑マンダラに関連する尊格を描いている︒作品の上段と下段には横長の区画を

ニプトンゆかりの作品とその周辺

Za3

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